2001.9.17 難しい質問を受けてしまった
記念すべき第1回目、いったい何を書いたもんかと思っていたら、ちょうど掲示版にこんな質問をいただきました。
『ペーパークラフトを仕事にするにはどうしたら良いのか?』
この仕事を始めてようやく一年半の僕にはちょっと荷の重い質問ですが、わかる範囲で真面目に答えます。長くなるわりにはどっちつかずの答えになるだろうから許してください。
現在、ペーパークラフトを職業としている人間は非常に少数です。たぶん日本全国のこけし職人を集めた数よりもぜんぜん少ないと思います。ただしそのことは一概に『それだけ生存競争の激しい世界なのだ。』という意味でもないのでご安心ください。理由は二つあると思っています。
理由1)これまでのペーパークラフトの需要を満たすには、それだけの作り手の数で充分だった。
理由2)ペーパークラフト作家というものが、職業として成り立つとは普通の人は考えてなかった。したがって、目指す人もそんなにいなかった。
ご存じのように、インターネットのの普及でここ数年ペーパークラフトの需要はずいぶんと伸びてきました。この状況が続くとすれば、ペーパークラフト作家を職業として目指すこともそれほど荒唐無稽だとは思えなくなってきています。駅の売店に当たり前のようにペーパークラフトが売られている(らしい)ドイツやオランダと較べて、日本のペーパークラフトの市場はまだまだ広がる余地があるので、これから新しい方がどんどん出てくるのではないかと思います。
さて、今回の質問の意図はおそらく、この後どういう進路を取り、どういう技術を身につければ良いのかということだと思います。一般論として、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築などの知識は役に立ちます。実際、そうした学校を出た方は多いですし、美術系の学校に進むのは意味があることでしょう。
ただし、当たり前のことですが、学校でペーパークラフトを教えてくれるわけではありません。『東京ペーパークラフト学院』も『多摩美術大学ペーパークラフト学科』もありません。現在プロとして活動している方たちも、ペーパークラフトの技術に関してはまったくの独学、あるいは見よう見まねで身につけた方ばかりですし、学校ではあくまでもデザイン感覚や技術の基礎の基礎を身につけるだけであって、それから後は全部自分一人でやる、ということは知っておいてください。反対にいうと、美術教育を受けていなくても、かなりの部分は自分の努力で何とかなるということです。
ぼくの知っている作家さんたちは、みなさん初めからこの世界を目指していたわけではなく、それぞれがいろんな職種を経てきた方ばかりです。その仕事を通して身につけた経験や知識はずいぶん大きいでしょうから、中学・高校時代からペーパークラフト作家を目指すとして、いったいどんな勉強をすれば良いかということは、正直言ってよくわからないのです。
ちなみに僕は、高校の普通科から大学の文学部に進み、卒業間際になってからグラフィックデザイナーになろうと決めました。いちおう専門学校にも行きましたが、役に立っているのかどうかはよくわかりません。ペーパーエンジニアリングの仕事をしている人がいることを知ったのが27の時、押しかけて行って雇ってくれとお願いしましたが断られ、しつこく自分で作った作品を見せに行っているうちに、ポツポツと仕事をもらえるようになり、しばらくはグラフィックデザインとかけもちでやっていました。この仕事をメインにしたのは34歳の時です。もうじき36歳、40歳になったら何をやっているかよくわかりません。本人にその気があって貧乏さえ平気だったら、方向転換なんていつでもできますからあまり目先の進路にこだわる必要はないのではないかと思います。
おしまいに。ペーパークラフトという分野は『プロ』と『アマチュア』の差が非常にあいまいな分野です。実際いろいろな人の作品を見ていると、その差は決して『質』の差ではないことがわかりますし、『この人にプロ宣言されたらヤバイ』というレベルの方も大勢いらっしゃいます。作品を発表して、仕事の依頼がきて、それを締め切りまでに仕上げて(これが大事)、お金がもらえれば(これも大事)、年齢や学歴なんかぜんぜん関係なく、その瞬間からプロですから、これまでになかったような作品をどんどん作り貯めてください。
以上、しょっぱなからとても長く堅くなってしまいましたが、このコーナー作ろうかどうしようか悩んでたところだから(人生相談のコーナーではないよ)、ちょうど良いきっかけになりました。