2001/9月〜12月
 
2001.11.14 本の話

 本が好きでよく読みます。以前は、ルポルタージュから世界の名作からSFから、手当たり次第に読んでいましたが、最近はもっぱらミステリーと冒険小説が専門になってしまいました。これは進歩?それとも退化?活字中毒というやつで、時々仕事場に読みかけの本を置き忘れて電車に乗ったりすると、自宅に着くまでの30数分間、車内をうろうろして中吊り広告を片っぱしから読んだりしています。
 急に入った仕事が一区切りついて、今日の午後ひさしぶりに資料探し以外の目的で本屋に行ってきました。好きな作家ができると立て続けに読むくせがあるので、全部読んでしまうと、他に好きな作家を見つけるか新刊が出るまでつらい思いをします。今がちょうどそんな時でした。ぶらぶら歩いていたら、思いもかけず京極夏彦とジェフりー・ディーバーの新刊を発見。これでしばらく至福の時を味わえると一安心しましたが、これを読み終えたら次はどうしようとドキドキしたりもします。早く新作出して下さい、高村薫さん、原りょうさん、天童荒太さん、奥田英郎さん、佐々木譲さん。

 この前、動くペーパークラフトを作るから”ペーパーエンジニア”っていうんですよね、と言われました。いかにもそんな感じですが、違うんです。この言葉は主に「ポップアップ」を設計する人を指すのに使われます。ぼくがこの世界に興味を持ったもともとのきっかけが飛び出す絵本だったので、この肩書きを名乗ったのですが、最近はポップアップの仕事はぜんぜんしていませんでした。いかんなぁ、こんなことじゃ誤解を招いてしまうなぁ、と思っていたら、世の中よくできたもので、このところポップアップの問い合わせが何軒かきています。来年には何点かものにして、堂々とペーパーエンジニアを名乗れるようになりたいと思っています。でも大変だんだ、ポップアップは。ペーパークラフトの3倍くらいゴミが出ます。
  

 
2001.11.01 久しぶりに田舎に帰ってきた

 また忘れてたよ、このコーナーのこと。いかんいかん。
 先々週の週末、高校時代の同級生の結婚式があって一年半ぶりに富山に帰ってきました。出席した同級生たちと会うのは、短くて5年ぶり、長い人だと15年ぶりだったりしました。こういう時の決まり文句は「みんな変わったなぁ」なんでしょうが、あんまり変わらなかったです、見かけも中身も。非常におっさんになった人もいましたが、思い出してみると彼は高校の時からおっさん臭かったし。
 ぼくは会うたび職業が違っているので、また聞かれました。「さかちゃいまなにしとんがけぇ?」訳すと「坂って今なにやってんの?」バイト3件かけもちしていた時もグラフィックデザイナーしていた時も何もしていなかった時も説明に困りましたが、今回ほど自分の職業を人に伝えるのに困ったことはなかった。え、え〜とね、紙でね、いろんなものを作ってね、それでね、モゴモゴモゴ・・・おーいみんな、そんなかわいそうな人を見るような目で見ないで!とりあえずその場にいた全員に、これを見てくれればわかるからっていって紙工房のアドレスの入ったポストカードを渡してきましたが、みんな見てくれたのかなぁ。家に帰って「昔、坂っていってね、夢みたいなことばっかり言ってるヤツがいてね・・・」なんて束の間のウワサになって終わってるだけのような気がする。いつか富山で作品展やってやる。

 
2001.10.12 チコチコ追い込んでます

 忘れてた、このコーナー作ったの。読んでる人いるんだろうか。まぁいいか。
 新作のからくりペーパークラフトの追い込みです。図面の整理をして、組み立て説明図もほぼあがり、撮影の準備もして、あと残っているのは・・・。集文社版のペンギンやオオハシを買ってくれた人はご存じでしょうが、タイトルの下に、動きをコマ撮りしたようなイラストが入ってますよね、あれです。いったい去年のぼくは何を考えていたんでしょうか?そんなにヒマだったんでしょうか?高さ2センチ足らずのあのこんまいイラストのために、今日一日机に向かってチコチコやってます。まだ終わりません。どうせ切り取り終わったら捨てられる運命なんだよな。こんなことやってるから新作が一年も出なかったんだよな。でも仕方ないか、性格だから。もう少しがんばります。

 話は変わりますが、仕事場では基本的に一日中J-waveがかかっています。先月秋の番組改編がありました。悪いとはいわないけど何か妙な方向に進んでいるように感じるのはぼくだけでしょうか?
 

 
2001.10.01 いいわけ、ぽいかな

 今回の更新に間にあわせたかった無料ダウンロードペーパークラフト・2001クリスマスバージョン、やっぱり間にあいませんでした。従来の作品のブラッシュアップは別として、新規のからくりはしばらく考えていなかったので、8月の終わり頃から悩み始めて、案が決まるのにずいぶん時間がかかってしまいました。直感的にアイデアがひらめく作家さんもいるのでしょうが、ぼくの場合はある時突然インスピレーションが湧くなんてことは皆無で、本読んで悩んで資料見て悩んで頭かかえて悩んで逆立ちして悩んでコーヒー飲んで悩んで煙草吸って悩んで、そのあげく一瞬気を抜いた時にそれまで考えてた方向とは全然違うものがスルスルっと出てくるという、たいへん効率の悪いやりかたしかできないので困ります。便秘に似てます。仕事場の相棒コンダ君によると、そんな時のぼくは鬼のような顔をしていて声をかけられないそうです。すまないね。でもね、それはお互いさまだから。
 

 
2001.9.25 組み立て説明図のはなし

 今年に入ってから毎月この時期は、世界遺産ペーパークラフトの仕上げの真っ最中です。始まった時にはあまりの分量にいったいどうなることかと思ったこのシリーズも、今回で16個目を仕上げ、いよいよ残すところあとわずかになってきました。う〜ん、なんだかなごり惜しい。こんなに楽しいことを時間に追われてバタバタやるのはもったいないので、できるだけこの時期は時間を空けて、おいしいコーヒーを入れて、気に入ったCDをかけて、ゆったりじっくり楽しんで・・・と思っているのですが、今月は少しピンチでした。
 世界遺産に限らず、「さぁ、できた、よしよし。」と一息ついた次の瞬間にやってくるのが『組み立て説明図』の制作です。これが実は大変。一点モノのペーパークラフトとは違い、ぼくが作っているもののほとんどは誰か別の人が組み立てることを前提としているわけだから、わかりやすくて正確な説明図があって初めて完成だということは重々わかってはいるものの、もちろん作った本人は説明図なんかなくても組み立てられるわけで、どこまでていねいに説明したらいいものやらいつも頭を悩ませます。ていねいにすればするほど、描かなきゃならない絵も増えてくるし。プラモデルなんかのすんごい組み立て説明図ってのは、まさかモデルを作っている本人が描いてるわけじゃないだろうから、それ専門の人がいるんでしょうか?ペーパークラフトの組み立て説明図を作るのが専門のデザイナーの人・・・なんているわけないよなぁ。いたらびっくりするもんなぁ。
 というわけで落ちのない書き込みで気分転換をすませ、組み立て説明図制作の続きに戻ります。でもその前にコーヒーいれよう。
 

 
2001.9.18 いい個展でした。そのまま帰れば良かった。

「紙のクルマ」でおなじみの溝呂木陽さんの個展が青山のギャラリーで始まり、昨晩オープニングに行ってきました。今回は本業の平面イラストレーションの展覧会です。『ある日、「カフェで絵を描こう」と思った。すぐ、パリに飛んだ(案内状より)』そうですが、こんなことを平気な顔で言ってしかもイヤミにならないのは、まったくもって得な性格だと思います。しかもこの人の場合、思い立ったらパリでもオランダでもホントにすぐ行っちゃうところがすごい。『ある日、「美味いラーメンを食べたい」と思った。すぐ、荻窪に行った。』くらいがぼくにはせいぜいです。カフェオレ飲みながら2,3時間で仕上げたという水彩画は、センスがあって、品がよくて、本人通り力が抜けてて、とても素敵でした。興味のある方はぜひどうぞ。

溝呂木陽HP

南青山画廊HP

その後、秘かに本日のメインイベントだった三軒茶屋釣り堀対決に、ごとうけい夫妻と向かいました。この2時間を作るために週末も仕事場に出たのに・・・これだけを心の支えにいつもより2時間早く出勤したのに・・・結果は惨たんたるものでした。思い出しても自分自身に腹が立つ。
 


2001.9.17  難しい質問を受けてしまった

記念すべき第1回目、いったい何を書いたもんかと思っていたら、ちょうど掲示版にこんな質問をいただきました。

『ペーパークラフトを仕事にするにはどうしたら良いのか?』

 この仕事を始めてようやく一年半の僕にはちょっと荷の重い質問ですが、わかる範囲で真面目に答えます。長くなるわりにはどっちつかずの答えになるだろうから許してください。

 現在、ペーパークラフトを職業としている人間は非常に少数です。たぶん日本全国のこけし職人を集めた数よりもぜんぜん少ないと思います。ただしそのことは一概に『それだけ生存競争の激しい世界なのだ。』という意味でもないのでご安心ください。理由は二つあると思っています。
理由1)これまでのペーパークラフトの需要を満たすには、それだけの作り手の数で充分だった。
理由2)ペーパークラフト作家というものが、職業として成り立つとは普通の人は考えてなかった。したがって、目指す人もそんなにいなかった。

 ご存じのように、インターネットのの普及でここ数年ペーパークラフトの需要はずいぶんと伸びてきました。この状況が続くとすれば、ペーパークラフト作家を職業として目指すこともそれほど荒唐無稽だとは思えなくなってきています。駅の売店に当たり前のようにペーパークラフトが売られている(らしい)ドイツやオランダと較べて、日本のペーパークラフトの市場はまだまだ広がる余地があるので、これから新しい方がどんどん出てくるのではないかと思います。

 さて、今回の質問の意図はおそらく、この後どういう進路を取り、どういう技術を身につければ良いのかということだと思います。一般論として、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、建築などの知識は役に立ちます。実際、そうした学校を出た方は多いですし、美術系の学校に進むのは意味があることでしょう。
 ただし、当たり前のことですが、学校でペーパークラフトを教えてくれるわけではありません。『東京ペーパークラフト学院』も『多摩美術大学ペーパークラフト学科』もありません。現在プロとして活動している方たちも、ペーパークラフトの技術に関してはまったくの独学、あるいは見よう見まねで身につけた方ばかりですし、学校ではあくまでもデザイン感覚や技術の基礎の基礎を身につけるだけであって、それから後は全部自分一人でやる、ということは知っておいてください。反対にいうと、美術教育を受けていなくても、かなりの部分は自分の努力で何とかなるということです。

 ぼくの知っている作家さんたちは、みなさん初めからこの世界を目指していたわけではなく、それぞれがいろんな職種を経てきた方ばかりです。その仕事を通して身につけた経験や知識はずいぶん大きいでしょうから、中学・高校時代からペーパークラフト作家を目指すとして、いったいどんな勉強をすれば良いかということは、正直言ってよくわからないのです。

 ちなみに僕は、高校の普通科から大学の文学部に進み、卒業間際になってからグラフィックデザイナーになろうと決めました。いちおう専門学校にも行きましたが、役に立っているのかどうかはよくわかりません。ペーパーエンジニアリングの仕事をしている人がいることを知ったのが27の時、押しかけて行って雇ってくれとお願いしましたが断られ、しつこく自分で作った作品を見せに行っているうちに、ポツポツと仕事をもらえるようになり、しばらくはグラフィックデザインとかけもちでやっていました。この仕事をメインにしたのは34歳の時です。もうじき36歳、40歳になったら何をやっているかよくわかりません。本人にその気があって貧乏さえ平気だったら、方向転換なんていつでもできますからあまり目先の進路にこだわる必要はないのではないかと思います。

 おしまいに。ペーパークラフトという分野は『プロ』と『アマチュア』の差が非常にあいまいな分野です。実際いろいろな人の作品を見ていると、その差は決して『質』の差ではないことがわかりますし、『この人にプロ宣言されたらヤバイ』というレベルの方も大勢いらっしゃいます。作品を発表して、仕事の依頼がきて、それを締め切りまでに仕上げて(これが大事)、お金がもらえれば(これも大事)、年齢や学歴なんかぜんぜん関係なく、その瞬間からプロですから、これまでになかったような作品をどんどん作り貯めてください。

 以上、しょっぱなからとても長く堅くなってしまいましたが、このコーナー作ろうかどうしようか悩んでたところだから(人生相談のコーナーではないよ)、ちょうど良いきっかけになりました。